すごい本に出会った!
とてつもなく面白い本に出会ったので
どうしてもご紹介したいのですが
あまりにも「ご紹介したいどころ」が多すぎて
なんかものすごい長文になってしまったので
興味と時間のある方だけ読んでいただければコレ幸い。
46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生
3歳で失明してから43年後、46歳の時に
角膜上皮幹細胞移植手術によって視力を取り戻した
マイク・メイという実在の人物の話です。
目が見えないとはいっても
とにかく生涯のモットーが
「冒険しろ」
「好奇心を大切にしろ」
「転んだり、道に迷ったりすることを恐れるな」
「道はかならず開ける」
・・・という人なので
自転車は乗るわスキーで世界記録は出すわ
CIAの分析官になるわビジネスを立ち上げるわ
しかも女性にモテモテだわで
彼のサクセスストーリーとしても相当おもしろいんですが
やっぱりメインは目の手術に関する話。

失明した方が視力を取り戻したらさぞや喜ばしいのだろうな
などとわたしなんかよく思うのですけれど
実際はそんな簡単なことではないようですね。
「目が見える」という目のはたらきと
「見て理解する」という脳のはたらきは別モノで
たとえば人の顔を見分けるとか
奥行きを推察して三次元で物を見るとか
手前の物が大きく見える遠近感とか
そういうのは脳が訓練を積んだ結果なんだそうです。
なので、43年間も目が見えなかったマイクは
いくら視覚が正常に戻ったとしても
脳がその機能を長らく使っていなかったため
手術を受けた後も「見えるのにわからない」
というジレンマに苦しむことになります。
こう書くと難しそうですが
たぶん海外に行ったことのある方はほんの少しだけ
似たような経験があるんじゃないかと思います。
たとえば高速道路なんかで出てくる行き先の表示。
日本語なら「銀座」とか「渋谷」とか書いてあっても
「ぎん・ざ」とか「しぶ・や」など読んでいるわけじゃなくて
なんとなく画像として判別してるんですよ、きっと。
でも英語だとパッと見て判断することができないので
わたしはNZに来てしばらくの間
運転しながら全部読まなきゃならなくて苦労しました。

慣れないと自分が必要としてる情報がどれなのかもわからない。
道路だけじゃなくてお店の看板とか本のタイトルとか
とにかくありとあらゆるものを全部読まないとわからなかったのですが
今となっては日本語とおなじようにビジュアルで入ってきます。
これもわたしの脳がそういう訓練を積んだからであって
しかもその機能というのは、子供の頃に使い始めないと
別の用途に使われてしまって取り戻せないんだそうです。
マイクがどんなにがんばっても
人の顔を見分けることができないのはこのため。
外国人が日本人を「みんな同じアジア人」としか思えないとか
逆にわたしたちが外国人を見分けられないというのも同じ理由で
単に慣れてないだけなので、訓練すればわかるようになります。
でもマイクは3歳で視力を奪われてしまったために
そこに使われるべきだった機能は別の仕事に回されてしまい
いまさら復活させることは不可能なんだそうです。

ファーマーが何百頭もの羊を見分けられるのも訓練しているから。
それから視力を取り戻すと
あらゆる情報が一気に流れ込んできて疲れる
・・・というふうに書いてあるのですが
これもなんとな~く理解できる。
というのもわたし自身、0.03しかなかった視力を
レーシックで1.5ぐらいまで回復したんですけど
その後しばらくは、まさにそんな感じでした。
聴覚もそうですけど、人間の感覚って
自分に必要なものだけを選別するフィルター機能
みたいなものが備わっているじゃないですか。
目も、必要なもの以外は自然に焦点がぼやける
・・・みたいな感じになってると思うんですよ、普通。
でもレーシック手術の後はとにかく見えるものすべて
均等に焦点が合ってしまってものすごく疲れました。
なので、ちょっとそういう感じなのかなぁと。
それ以外にも、わたしたちの日常生活では
ありとあらゆるところで脳と視覚が連動しているため
せっかく視力を取り戻してもこの問題で疲れ果て
鬱になってしまうケースも多いそうです。

遠くになるにつれて道が細く見えるのも、脳のはたらきによるもの(だそう)。
マイクもさまざまな検査の結果
「どんなに努力をしても、
あなたはスムーズに物を見られるようにはならないと思う。
普通の人と同じようにはならない。
途方もない重労働がずっと続くことになる。」
・・・と医師から宣告され
一度は投げやりになるのですが
この人がすごいのはここから。
いったん落ち込んだあとは
「どうすればもっとよく見えるようになるのだろう」ではなくて
「自分が他人より上手にできるのは何だろう?」
という方向に気持ちを切り替え
一般の人よりも優れている触覚や音の反響、記憶力などを駆使して
スムーズに物を見る方法を編み出していきます。
このあたりのところは読んでいて
感動というよりスカッとする。

「犬」は知っていても、こうして写真に写ったものがあの「犬」だとは
認識できなかったりするそうです。(触れないので)
とにかくこの人の超ポジティブな思考には
同感することばかり。
大変おこがましいことではありますが
もしわたしが同じ立場だったらこうするだろうなあ
・・・ということをバシバシやってくれるので
読んでいてとても気分がよかったです。
マイク・メイの人生を追うストーリーと
視覚のしくみを解説する図解付きの文章のバランスもいいし
なによりも翻訳がとても自然で読みやすい。
450ページもある分厚い本で、しかも内容がこんなに濃いのに
あっという間に読めてしまう
というか、どんどん先が読みたくなってしまいました。
ずいぶんたくさんの本を読んできましたが
こんなに面白い本にはなかなか出合えません。
本なんて好みがあるんで「おすすめ!」とか言えませんが
少なくともわたしにとっては人生でベスト10に入る。かも。
目ってすごい・・・

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| 読書ノオト | 11:09 | comments:25 | trackbacks:0 | TOP↑
No title
すごいなぁの一言しかありませんね。私が彼だったらここまでポジティブに生きていけるかしら…。前にテレビで盲目のアフリカンアメリカンの男の子が舌打ちの反響だけで何がどこにあるかが分かるから誰かに殴られたとしても殴り返せると言っていたことがあります。彼もスケボしたりととってもアクティブに過ごしていました。それも盲目ゆえに聴覚が人より発達したから出来るようになったのですがこういうストーリーを聞くと人間の体って自然にバランスとるようになってるんだなぁとそれまで気にも留めていなかったことに感謝するようになりますよね。
本、日本から取り寄せて読んでみようと思います。
| いのり | 2010/01/20 08:26 | URL |